Ukrainian cheese in Japan

私とチーズの関わり

ウクライナの私の実家は地域で代々チーズの製造を行って来た老舗でした。

チーズは自宅で製造され、地域のマーケットなどで販売するのです

そこで私はチーズ造りの基本を仕込まれました。

私はチーズ造りのプロセスに魅了され、自ら研究するようになり、製造できるチーズの種類を32種類に増やしました。

実家で私がお婆さんお爺さんから教わったチーズ造りは地域に根差した伝統的なもので、

自宅で牛を飼って酪農もしていました。

ウクライナでは、人々が皆何かしらの食品の製造をしており、物々交換が盛んで、地域のマーケットでは材料が何でも手に入りました。

地域の野菜や肉や種や加工品が並ぶ露天市はとても種類豊かで私が大好きな場所でした。

日本で直面した困難

日本に来た私は、地域には同じような露天が毎日開催されており伝統的な食材が沢山売られているだろうと楽しみにしていました。

ところが、日本の地域はスーパーばかりで、消費者は生産者との直接の接点が無いのです。

チーズは加熱処理をしていない牛乳を材料にします。

原料である牛乳には様々な種類があり、出産したばかりの牛の脂肪分が多い牛乳や、子牛がもっと大きくなった時のよりさらさらになった牛乳など、様々な牛乳が求められます。

私は原料になる牛乳を酪農家から直接購入できると思い、地域の酪農を探査しました。

ところが、法律が厳しくて直接売れないのだと言われました。

日本では簡単な事に何でも資格が必要で、庶民は材料でなく、加工された完成品しか買えない事を知りました。

スーパーで私が見たチーズの多くは多くの観点で優良品とは褒められないものが多い上にとても値段が高いのです。

人工調味料や化学保存料でチーズらしくしたものや、ナチュラルと謳いながら自然の酵素を使用していないものや、私から見ると、重要な工程を幾つも抜かしたもの、殺菌しすぎでチーズの味がしなくなったもの。。。品種が少ない上に、私が食べて来たチーズと比べると全然美味しくないのです。

私は尚更、日本の人々に本格派のチーズを良心的な価格で提供したくなりました。

そこで営業許可に求められる衛生管理上の項目を調べましたところ、材料と完成品と調理室と、調理道具の収納が別の部屋になっている事や、床の上1Mの防水加工がある調理室である事など、設備に求められる基準がとても多い事が解りました。

違うものには前例がない。

しかし、違うからこそ意味がある。

日本で乳製品の加工で起業するには、

資本力のハードルがありますが、

私は戦争で、祖国にあった家もビジネスも何もかも総て失ってしまった為、尚更起業の資金面でのハードルを高く感じています。

同時に私は責任も感じます。

私の故郷であるイジュム市は激戦区になり、親とも連絡が取れていません。村人も略全滅してしまい、再建不可能の瓦礫の山になってしまいました。故郷のチーズの製造技術の継承者で生き残り、製造活動を続けられるのは私だけかもしれないのです。

私は国土が失われても、

ウクライナという国の文化に残って欲しいのです。そして食文化もまた文化の一部です。

「ウクライナでは、こういう美味しいチーズを造る伝統があるんだよ」、という事を体験して欲しい。

故郷を追われた身の上として、私の中にある

文化的アイデンティティーや誇りであるものを守って行きたいのです。

そして被害者であるという意識を克服し、

味の力によって、ささやかな成功を描いてみたいのです。